Wrangler

“Wrangler”（ラングラー）は、アメリカ合衆国のデニム製品ブランドで、主にジーンズやカジュアルなアウトドアウェアを提供しています。Wranglerは、1947年に設立され、当初はカウボーイやアウトドア愛好者向けの耐久性のあるデニム製品で知られていました。

Wranglerのジーンズは、その強固で耐久性のあるデザインと、アウトドアアクティビティに対応する機能性で広く愛用されています。また、カウボーイカルチャーとも結びついており、Western Wear（ウエスタンウェア）の一環としても人気です。Wranglerは、アメリカを代表するデニムブランドとして、世界中で広く認知されています。

その創業以来、西部のカウボーイやアウトドア愛好者向けにデザインされたジーンズで知られています。ブランドの名前自体が、「馬を扱う人」や「牛を取り繕う人」といった意味を持つ「wrangler」に由来しており、その起源からアメリカンカルチャーの一翼を担っています。

Wranglerの歴史

ラングラーが誕生したアメリカは、大陸を東から西へと広がるフロンティアの時代に誕生した国でした。この時代において、開拓者たちは西進し、幌馬車や大陸横断鉄道を利用して新しい領域を開拓していきました。開拓者たちは到着した地で新しい故郷を見つけ、一方で別の場所に移動する者もいました。これにより、様々な産業が育まれ、町は発展していきました。フロンティアの産業は農業、放牧、鍛冶屋、家具製造など、身体を駆使した労働に基づくものが主でした。

この時代において、労働衣料は生活の一環であり、頑丈さが求められました。耐久性があり、過酷な労働に対応し、動きやすいことが重要な条件でした。時が経つにつれて、農場労働者、工場労働者、鉄道労働者など、用途に合わせたワークウエアが開発されていきました。

ワークウエアは、アメリカを支えてきた底辺の男たちと共に、国を形成してきたと考えられます。そして、ラングラー・ジーンズの起源には、アメリカ有数のワークウエアメーカーである”ブルーベル”の歴史が絡んでいます。ブルーベルは、多くのワークウエアメーカーが統合されて生まれた企業であり、その歴史と経験がラングラーの基盤となっています。

ラングラーが生まれた背景や歴史を理解することは、このブランドの魅力を深く知るために不可欠です。歴史を知ることで、ラングラーの誕生が偉大な歴史的な背景を持ち、必然の出来事であったことがより理解されるでしょう。

1889年：ラングラーの母体となるブルーベル

ブルーベルの成り立ちには、複数のワークウエアメーカーが統合された歴史がありますが、そのルーツの一つはハドソン・オーバーオール・カンパニーです。ハドソン・オーバーオール・カンパニーは、創業者C.C.ハドソンと弟のホーマーによって1897年に設立されました。彼らはテネシー州ウイリアムソン・カウンティのスプリングヒル農場を離れ、最終的にノースカロライナ州グリーンズボロに辿り着きました。

C.C.ハドソンは20歳の若さで地元のオーバーオール製造工場で働き始め、その後数台のミシンを買い取り、独立の道を歩みました。1904年には「ハドソン・オーバーオール・カンパニー」を設立し、サウスエルム・ストリートの食料品店の屋根裏部屋で事業を開始しました。

事業は成功し、工場は屋根裏部屋からアーリントン・ストリートの古い教会に移り、農場の女性を雇い製造を拡大していきました。1919年には社名を「ブルーベル・オーバーオール・カンパニー」に改め、同時に自社工場を設立しました。なお、ブルーベルという名前は、ハドソンの店の馴染み客だった鉄道員のグループから贈られたベルに由来しています。このベルは鉄道員の信頼の証であり、工場に置かれ、デニムの製造中に発生するブルーの粉塵で覆われていったとされています。この逸話から、ブルーベルは「インディゴに包まれた労働者の象徴としてのベル」という意味を持っています。

ハドソン・オーバーオール・カンパニーが創業されてから3年後、テネシー州でラングラーにとってもう一つ重要なワークウエアカンパニーが誕生していました。

1947年：機能美溢れるディティール

1947年はブルーベル社とジーンズの歴史において輝かしい時代の幕開けであり、永遠に記憶されるべき年でした。ブルーベル社は、それまでのワークウエアの製造から一新し、ウエスタンウエアの分野に進出する決断を下しました。これがラングラー・ブランドの誕生を意味し、ブルーベル社は「世界のワークウエアメーカー」から「世界のワークエア＆カジュアルウエアメーカー」へとスローガンを変更しました。

ブランド名の「ラングラー」は、1943年に買収したケーシー・ジョーンズ社から取得したものでした。しかし、ブランド名の決定はトップダウンではなく、社員の参加を得たものでした。ラングラーの商標であるカウボーイは、いくつかの候補とともに社員に提示され、圧倒的な支持を受けて選ばれたという背景があります。この民主主義的なアプローチもラングラー・ブランドの特徴であり、魅力とされています。

この計画には、前述のハリウッド映画のカスタムテイラーであるロデオ・ベンが参加しました。1947年に生まれたモデルである11MWは、現在のヴィンテージのラインナップにおいても復刻されています。この初のモデルは、ファーストモデルであり、またプロトモデルとしても知られています。この時期ならではのディテールデザインは、現在のラングラー・ジーンズの特徴とも言えるプロトタイプとされています。

例えば、ラングラーの代名詞であるジッパーフライはまだ採用されておらず、フロントはボタンフライ仕様です。バックポケット上のパッチは、本革を素材に用いて内巻きロゴが刻まれています。フロントのポケットも独特のフロントスウィングポケット仕様はまだ施されておらず、ワークウエア的なテイストが残されています。しかし、セルビッジデニムを使用した巻き縫いのアウトシーム、7本のベルトループ、ラウンド形状のノースクラッチリベット、そしてウエストバンドのラインと平行してデザインされた”ロデオ・ベン・ウォッチポケット”など、現在もラングラー・ジーンズのアイデンティティとして知られるディテールデザインは既にこの時期に開発されていました。

この新たに開発された機能美あふれるディテールデザインと、ワークウエアの伝統的な機能デザインが融合した温かみのある存在感は、多くのヴィンテージマニアの心を引き続けています。11MWの11は試作品ナンバーを示し、Mはメンズ、Wはウエスタンウエアを意味しています。11MWの品番にジッパーフライを表すZが冠され、現在のラングラー・ジーンズの基本形が完成するのは、翌1948年のことでした。

1950年：カウボーイ＝アメリカンドリーム

カウボーイは一日の大半をサドルの上で過ごすハードワーカーであり、その実像は洋書屋などで見かける写真集によって明らかです。顔や手に刻まれた深いシワが、そのハードワーキングな生活を物語っています。同時に、カウボーイは強い国、夢の国アメリカの象徴ともなりました。この象徴性は、’30年代の大恐慌の頃から注目され、経済の悪化に対抗するためのマインドツールとしても捉えられていました。

デュードランチ（観光牧場）の企画や映画において、富裕層がカウボーイを観光の対象として楽しむ姿が見られました。これにより、カウボーイは観光客が過ごした休日のヒーローとして親しまれるようになりました。同時に、銀幕でもカウボーイは主役として登場し、ヒーローとしての虚像が作り上げられました。この時期から’70年代前半まで、映画のスクリーンの中でカウボーイはヒーロー役を果たしました。ウエスタンムービーの衰退は、1970年前後において、勧善懲悪を否定した映画が新しいムーブメントを引き起こしたことによるものと考えられています。

ラングラー・ジーンズが登場した第二次世界大戦直後から’50年代は、カウボーイがヒーローとして迎え入れられた時代のピークでした。多くのウエスタンムービーが映画館やテレビで放送され、この時期はカウボーイが栄光を極めた時代でした。初代デザイナーであるロデオ・ベンがハリウッドの衣装デザイナーであり、またテレビのウエスタンドラマ「ホパロング・キャシディ」の衣装デザインを手掛けたことも、この時代を象徴する要素と言えるでしょう。1950年には、ラングラーのジーンズとジャケットがベースになったデュードランチのボーイズ・ブランドが登場し、1955年にはディズニーの「デイビー・クロケット」を含むウエスタンウエアに対する需要に応えています。

これらの事実は、ラングラー・ブランドがウエスタン・ジーンズの代名詞として認識されていたこと、そしてその完成度が非常に高かったことを示すエピソードとして捉えることができます。

1960年：11MWZは13MWZへ

1960年代に入り、ブルーベルは品質向上とともに生産基地と販売エリアの拡大に注力しました。

その最初のステップは、当時の社長であるJ.C.フォックスが理事会メンバーの支持を受けて決定した海外進出でした。1962年にはベルギーのヘンクに初の海外工場をオープンし、その後10年間でマルタ島、イギリス、カナダにも工場を設立しました。

同時に、国内での製造キャパの拡大も急務となりました。1965年には兄弟ブランドであるマーヴェリックをリリースし、需要拡大に応えるための取り組みが進められました。その一環として、1964年にはレッドキャップ・マニファクチャリング社を買収し、ワークウエアメーカーとして知られる同社を手中に収めました。レッドキャップ・ブランドは現在も続き、キャップマークのワークウエアやユニフォームを生産しています。さらに、1966年にはビーバー・シャツ社とハックルバーグ・シャツ社を買収し、プエルトリコのコーラルマニファクチャリング社も手に入れ、3つの工場を所有するプエルトリコ・ブルーベル社へと発展させました。

この生産拡大と同時期に、ラングラー・ジーンズの品質改良も進んでいます。1964年にはブロークンデニムの採用が行われ、この織り組織によりシームのねじれを防止し、ブルーの色が鮮やかに見える特徴が加わりました。同時に、11MWZの品番が13MWZへ変更されつつ、1964年にはセルビッジ仕様の11MWZが発表され、1年間の製造期間とセルビッジのオープンシームでの縫製が特徴的で、後にヴィンテージ・ジーンズとして珍重されることになりました。

そして1965年、ラングラー・ジーンズからブルーベルのマークが消え、これは「ブルーベルのラングラー」とアナウンスしなくても、「ラングラー」が独自のアイデンティティと信頼を築いた証でした。

1975年：全米プロ・ロデオ・カウボーイ協会(PRCA)が、ラングラーのジーンズとシャツを公認ジーンズに認定

ラングラーとカウボーイ、特にロデオとの結びつきは深く、11MWの誕生時からそのボディにはカウボーイ向けのデザインが施されていました。1948年には、チャンピオン・カウボーイのジム・ショルダースと契約し、広告上でフィット感やスタイリングの提案を行いました。この流れの中で、全米プロ・ロデオ・カウボーイ協会(PRCA)が1974年にラングラーのジーンズとシャツを支援するアナウンスをし、翌1975年には13MWZを協会の公認ジーンズに指定しました。

ロデオは、カウボーイが培ってきたテクニックを競技化したもので、アメリカでは伝統スポーツとして広く認知されています。ラングラー・ジーンズは、このハードな種目に対応するために頑丈さと馬上の動きをサポートする機能が備わっています。例えば、リベットはサドルを傷付けないためにデザインされ、7本のベルトループはベルトをしっかりキープするためにバックサイドを強化しています。フロントのベルトループの位置は、大きなバックルを好むロデオ・カウボーイの嗜好に合わせて配置されています。

競技にはサドル・ブロンコ・ライディングなどの暴れ馬や牛を乗りこなすものから、バレル・レーシングやステア・レスリング、カーフ・ローピングなどのスピーディな競技までさまざまなものがあります。これらの競技は都会のデスクワークとは想像もつかないほどの負担がジーンズにかかります。ラングラーの13MWZは、これらの要求に応えるタフなジーンズであり、PRCAから公式ジーンズとして認められた史実がその証明です。

1980年：カウボーイのライフスタイルブランドへ

ラングラー・ジーンズは、全米プロ・ロデオ協会の公認ジーンズとして正式認定され、カウボーイのライフスタイルブランドとしての強固なポジションを築いています。このアイデンティティは1980年代以降も変わらず、ラングラー・ジーンズの特徴となっています。1979年にはアウトドアテイストのアイテムをリリースし、1980年にはカウボーイをイメージキャラクターとして起用したビッグプロモーションを展開。1981年にはオートレースにも協賛し、アイデンティティの幅を広げました。

映画「アーバン・カウボーイ」は1970年代後半に公開され、新たなウエスタンファンを生み出すきっかけとなりました。映画がリリースされると、ジョン・トラボルタ演じるカウボーイがジーンズインダストリーに大きな影響を与え、国内市場は急成長。ビル・ハーベイは当時の状況を「映画のリリース後、誰もがウエスタンに夢中になり、1年で5.1億本に到達した。国民全部がジーンズをはいていたことになる」と語っています。

世界的にも展開が進み、1972年に日本に上陸し、日本のジーンズシーンにおいても欠かせない存在となりました。カウボーイだけでなく、ジャッキー・スチュワートやリー・トレヴィノなど各界の著名人たちからの支持も集め、ミュージックシーンではガース・ブルックスやウイリー・ネルソンなどが愛用し、ラングラー・ジーンズは彼らの歌にも登場しています。

ブルーベルが築いたワークウエアの歴史をルーツに、11MW、13MWZなどの名品を生み出してきたラングラー。そのアイデンティティは、常に働く人々の快適性を考えるスタンスを持ち、世界中のウエスタンファンやジーンズファンに愛され続けています。

1 MW WESTERN SADDLE PANTS

1951年に登場した11 MW WESTERN SADDLE PANTSは、「ロデオ・ベン・リヒテンシュタイン」によってデザインされ、全米のロデオ・サーキットの顧客に支持されているウエスタン・ウェアのカスタムテーラーです。これは、ロデオ競技においてサドル上での過酷なアクションに耐えるためのディテールに焦点を当てています。

11MWの特徴は、深めの股上と腰回りで提供される最適なホールド感、高めのバックポケット位置、サドルを傷つけないノースクラッチ・リベット、そしてトロフィーバックルのスペースが確保された広めのフロント・ループなど、プロ・ロデオ・ライダーのニーズに応えるディテールが凝縮されています。これらの要素は、11MWが”真の”ウエスタン・ジーンズであることを印象付けています。

さらに、1950年にRCAオール・アラウンド・カウボーイのタイトルを獲得した「ビル・リンダーマン」の肖像がフラッシャーに加わった1951年モデルは、その復刻版として登場しています。これにより、歴史的な瞬間を称えつつ、最新のテクノロジーとデザインを融合させたジーンズが提供されています。

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